2022年2月。ロシアがウクライナに侵攻し戦争が始まった。すでに1年半が経過し、簡単に終わらないと誰もが実感するところだ。
ロシアにもウクライナにも知り合いのキュレターや写真展のイベントディレクターがいて、とても複雑な思いだ。当事国ではない日本の写真家がどうすることもできない。
日本では欧米からのニュースがほとんどなので、西側からのニュースが終始し、ロシアの非道が伝えられたり、戦争の進捗状況がつたえられる。基本はロシア非難で見方はまとまっているように思う。
両国の知り合いとやりとりしていると、そんな、単純にどちらが悪いと言って全てを片付けてしまう考えにはなかなかなれない。
まず、ロシアのキューレターだが、もちろん戦争は反対。だが、それを口にしたり、SNSにあげたりすると逮捕されたり、弾圧を受けたり、職を失う危険もある。二人ほどは、戦争初期の段階でUSAに知り合いを辿って逃れ、一人はイスラエルに行ってしまった。

一方、ウクライナのディレクターも、美術館での展示は社会的な関心ごとをアートの立場で解き明かして、人々にポジティブなインパクトを送ることが主な目的。
単純に、ロシアがやった非道だけをアートにするということもできるかもしれないが、未来を託す子どもたちに、人を恨む、憎しみの感情を伝え続けることはできない。教育に、恨むの感覚を教えることはできない。
8月4日からロシアのハンティマンシーンスクのNature and Man Museumで僕の個展がスタート。会期は10月6日まで。どうして、戦時下の国でと思われるだろうが、熟慮の末だ。
ロシアの美術館

 ユネスコ憲章に次のような文が載っている。

UNESCO Constitution
Since wars begin in the minds of men, it is in the minds of men that the defenses of peace must be constructed;
That ignorance of each other’s ways and lives has been a common cause, throughout the history of mankind, of that suspicion and mistrust between the peoples of the world through which their differences have all too often broken into war.
That a peace based exclusively upon the political and economic arrangements of governments would not be a peace that could secure the unanimous, lasting and sincere support of the peoples of the world, and that the peace must therefore be founded, if it is not to fail, upon the intellectual and moral solidarity of mankind.

簡単に訳すと

戦争は人の心の中で生まれるものであるから、人の心の中に平和のとりでを築かなけれ ばならない。
相互の風習と生活を知らないことは、人類の歴史を通じて世界の諸人民の間に疑惑と不信を起こした共通の原因であり、この疑惑と不信の為に、諸人民の不一致があまりにもし ばしば戦争となった。
政府の政治的及び経済的取り決めのみに基づく平和は、世界の諸人民の、一致した、し かも永続する誠実な支持を確保できる平和ではない。よって、平和が失われないためには、 人類の知的及び精神的連帯の上に築かれなければならない。

僕が深く同意するのは、「心に平和の砦をつくる」という一文。政治的にも、経済的にも戦争を止めることができない時に、一民間人ができることは平和のメッセージ、日本の相手や自然をリスペクトする文化を紹介することぐらいしかできない。
そんな理由で、写真展を開催することに。

内容は、世界中の巨木の写真。日本には自然を祈る文化があること。相撲のように、勝負が決まってもお互いに礼をし、相手を敬うという文化があることを伝える。実に遠回しなのだが、平和の大切さを文化面でできるギリギリのところ。ましてはロシアから見ると日本は制裁を加える敵対的行動を取る国になる。

 美術館の館長がオープニングで、作者の写真を前に自分もかつて大いなる自然を前に、穏やかな気持ちになったことをおもいだした。対象をうけいれて大切にしていかないといけないことを学んだ。ぜひ、子供に伝えていきたいと話す。
よく言われる譬え話だが、小さな石ころを川面に投げ、波紋を作るような力しかない。どこかに届くことは間違い無いが、プラスになってくれるか。いい意味で貢献できるかは本当にわからない。


 言えることは、それでも小さな石を投げ続けるのが作家としては大事なんだろうなと思えることだ。
横浜の、一個人の写真家が小さな石ころを投げて行く。

よき、波紋ができればいいのだが。

NATURE AND MAN MUSEUM
8月4日から10月6日まで
11:00 から 19:00
ロシア、ハンティマンシーンスク